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創価大学

O-GlcNAc糖鎖修飾が、Pボディの形成を阻害して、ES細胞の多能性を維持していることを発見(理工学研究科・糖鎖生命システム融合研究所所長 西原祥子教授)

大学連携

研究

2021.07.19

成果のポイント                                       

 

●マウスES細胞で、プロテアソーム活性化サブユニット3 (Psme3) のSer111がO-GlcNAc修飾されている。

 

●Psme3のSer111上のO-GlcNAc修飾は、DEADボックスポリペプチド6(Ddx6)の分解を介してPボディ(RNA顆粒の一種)の形成を阻害している。

 

●Psme3のSer111上のO-GlcNAc の喪失は、Ddx6の増加とPボディ形成を促進し、ES細胞を分化へと導く。

 

創価大学の西原祥子教授(糖鎖生命システム融合研究所所長・理工学研究科生命理学専攻・理工学部 共生創造理工学科)の研究グループは、東京大学の山本一夫教授の研究グループと共同で、O-GlcNAc糖鎖修飾が、Pボディの形成を阻害して、ES細胞の多能性を維持していることを見出しました。

 

糖鎖修飾が幹細胞の特性の決定において重要な役割を果たすことが、近年、ますます明らかになってきています。本研究では、プロテアソーム活性化サブユニット3(Psme3)のSer111のO-GlcNAc修飾が、マウスES細胞の多能性を維持する重要な糖鎖修飾であることを明らかにしました。Psme3のSer111のO-GlcNAc化は、Pボディのアセンブリに必要なDEADボックスポリペプチド6(Ddx6)の分解を促進し、Pボディを減少させます。その結果、Klf4-やKlf2-などの多能性維持にかかわるコア転写因子をコードするmRNAが翻訳され、多能性状態が維持されます。逆に、Ser111に変異を導入してPsme3 のO-GlcNAc化を阻害すると、Ddx6は安定化してPボディが増加し、多能性コア転写因子のタンパク質レベルが低下してマウスES細胞は多能性状態から抜け出し、分化に向かいます。本研究は、Psme3のSer111上のO-GlcNAc修飾が、Pボディの恒常性を調節することによってES細胞の多能性を制御する重要なプロテアソーム調節メカニズムであることを明らかにしました。RNA顆粒形成という翻訳からmRNAを排除するメカニズムは、細胞の分化などの劇的なスイッチングにかかわる重要なプロセスであり、それがO-GlcNAc修飾により制御されていることを明らかにした新規の発見です。

 

本研究の成果は、7月13日午前11時 (EST) に米国科学雑誌「Cell reports」に掲載されました。

 

本研究の一部は、JSPS科学研究費18K06139および創価大学糖鎖生命システム融合研究所共同研究費の支援を受けて実施されました。

 

研究成果の重要性                                        

 

RNA顆粒の一種であるPボディは、膜のない細胞質オルガネラで 幹細胞のアイデンティティを調節しています。液-液相分離によって生じ、その形成には、RNAヘリカーゼであるDEADボックスポリペプチド6(Ddx6)が必要です。一方、プロテアソーム活性化サブユニット3 (Psme3)は、カハール体や核スペックルなど、液-液相分離によって形成される膜のない細胞質オルガネラの恒常性を調節していることが知られていました。また、細胞質にある唯一の糖鎖修飾であるO-GlcNAcの幹細胞における機能も明らかにされてきていましたが、これら三者の関連は予想もされていませんでした。

 

本研究では、マウスES細胞において、Psme3がDdx6と相互作用し、Psme3のSer111のO-GlcNAcがDdx6分解を媒介すること明らかにしました。これは、ES細胞におけるO-GlcNAc、プロテアソーム、Pボディの恒常性の関係を確立するものでした。本研究の成果は、Pボディの生物学、多能性ネットワークにおけるプロテアソームと糖鎖修飾O-GlcNAcの役割に関連する新たな知見を提供し、発生生物学、幹細胞生物学の基盤形成に寄与するものです。

 

研究の背景                                           

 

マウスES細胞の多能性は、外因性および内因性の要因で構成される複雑なネットワークによって厳密に制御されています。O-結合型β-N-アセチルグルコサミン(O-GlcNAc)は、細胞質および核タンパク質に認められる唯一の糖鎖修飾であり、基本的な細胞プロセスの調節において極めて重要な役割を果たしています。O-GlcNAcは、O-GlcNAc転移酵素によってタンパク質のSer、あるいは、Thrに付加され、O-GlcNAcaseにより除去されます。これまで我々を含むいくつかの研究グループから、ES細胞における機能が報告されていました。しかし、O-GlcNAc修飾を受けているタンパク質は多様であるため、ES細胞の多能性への関与について、十分な解析がなされているとは言えませんでした。

 

そこで、本研究では、はじめに、共同研究者の山本らが開発した高感度なO-GlcNAc修飾検出法により、マウスES細胞とそこから誘導したエピブラスト様細胞において、O-GlcNAc化されているタンパク質を広範に検出しました。興味深いことに、マウスES細胞と少し分化が進んでいるが多能性は保持しているエピブラスト様細胞では、O-GlcNAc化されているタンパク質のパターンが異なっていました。O-GlcNAcによるプロテアソームの制御とES細胞の多能性ネットワークの関連が不明であったため、検出されたタンパク質から、プロテアソーム活性化サブユニット3(Psme3)を選択し解析を進めました。Psme3は、多能性を維持している両細胞においてO-GlcNAc修飾を受けていました。

 

Psme3とFLAGの融合タンパク質を発現させ、免疫沈降と質量分析によりPsme3と相互作用しているタンパク質を解析したところ、Pボディの アセンブリに必要なDEADボックスポリペプチド6(Ddx6)とDdx6と相互作用することが報告されているGrbp2、Fxr1、Rpl7などが検出され、Psme3のPボディへの関与が推察されました。実際、Psme3を過剰発現させるとDdx6は分解され、Pボディが減少しました。質量分析と免疫沈降により、Psme3のSer111がO-GlcNAc修飾されていることが分かったので、修飾部位に変異を導入した変異体と野生型のPsme3をES細胞に発現させて、解析を行いました。変異体では、O-GlcNAc修飾が減少してDdx6との相互作用も顕著に減少し、Psme3のSer111のO-GlcNAc修飾がDdx6との相互作用とそれに続く分解を制御していることが分かりました。また、変異体を過剰発現させたES細胞では、Ddx6の分解が抑えられてPボディが増加し、Klf4-やKlf2-などの多能性コア転写因子のタンパク質レベルが低下して多能性状態から抜け出し、分化に向かっていました。これらの事実から、Psme3のSer111のO-GlcNAc化が、Pボディの恒常性の制御を介してES細胞の多能性を調節するスイッチとして働いていることが明らかになりました。

 

●掲載誌:科学雑誌「Cell reports 7月13日号」

●論文タイトル:Site-specific O-GlcNAcylation of Psme3 maintains mouse stem cell pluripotency by impairing P-body homeostasis
●著者:Federico Pecori, Nanako Kondo, Chika Ogura, Taichi Miura, Masahiko Kume, Youhei Minamijima, Kazuo Yamamoto, Shoko Nishihara