DPANN群に属する難培養性アーキアの培養に成功。寄生性アーキアの新しい生理生態を発見
大学連携
研究
2022.02.01
成果のポイント
●培養が極めて難しいDPANN群(※1) に属する寄生性アーキア(古細菌)(※2) の培養に成功し、形態学的特徴、生理性状、宿主依存性、全ゲノム配列情報を明らかにしました。
●DPANN群の中に「複数種の宿主を持つ寄生性アーキア」が存在することを世界で初めて培養実験によって確認しました。
●培養に成功したDPANNアーキア(ARM-1株)を微生物リソースとして公開しました。ARM-1株は世界初の第三者研究機関が利用可能なDPANNアーキアです。
●アーキアにおける新門Microcaldota門(※3) を提唱しました。
創価大学理工学部 共生創造理工学科 黒沢則夫教授、酒井博之助教、国立研究開発法人理化学研究所 バイオリソース研究センター 微生物材料開発室 大熊盛也室長、伊藤隆特別嘱託研究員、加藤真悟開発研究員、雪真弘開発研究員(研究当時)、清水美智留テクニカルスタッフ I、IPB大学 Antonius Suwanto 教授(インドネシア)、Muhammadiyah大学 Naswandi Nur 博士(インドネシア)で構成される研究グループは、DPANN群に属する難培養性アーキアの培養に成功し、その生理性状および全ゲノム配列情報を明らかにするとともに、アーキアの新門Microcaldota門を提唱しました。
本研究成果は2022年1月12日(英国時間)、科学雑誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」1月号に掲載されました。
本研究は日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金特別研究員奨励費「門レベルで新規の極小アーキアARMANの生理学的性状の解明と機能未知遺伝子の解析(研究代表者:酒井博之)」、JSPS科学研究費補助金若手研究「DPANN群に属する共生アーキア培養株の確立と共生機構の解明(研究代表者:酒井博之)」、JSPS科学研究費補助金新学術領域研究(研究領域提案型)「超地球生命体を解き明かすポストコッホ生態学(領域代表者:高谷直樹)」、「ポストコッホ微生物資源の基盤整備(研究代表者:大熊盛也)」、発酵研究所(IFO)若手研究者助成「DPANN群に属する新奇アーキアの共生機構の解明(研究代表者:酒井博之)」、創価大学理工学部国際共同研究費「インドネシアの温泉に生息する好熱菌の生態学および分類学的研究(研究代表者:黒沢則夫)」の支援を受けて実施されました。
掲載誌:科学雑誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(米国科学アカデミー紀要)」(1月号)DOI: 10.1073/pnas.2115449119
論文タイトル:Insight into the symbiotic lifestyle of DPANN archaea revealed by cultivation and genome analyses
著者:Hiroyuki D. Sakai, Naswandi Nur, Shingo Kato, Masahiro Yuki, Michiru Shimizu, Takashi Itoh, Moriya Ohkuma, Antonius Suwanto, Norio Kurosawa
詳細は、本学HP掲載の記事をご覧ください。
(※1)DPANN群:アーキア
(※2参照)の分類群のひとつで10以上の暫定的な門(※3)から成る。細胞とゲノムのサイズが小さく、多くの種が共生性であると考えられている。培養に成功した種は非常に少ない。
(※2)アーキア(古細菌): 生物界を構成する3つのドメイン(超生物界)のひとつ。他の2つはバクテリア(細菌)と真核生物(動物、植物、真菌、原生生物)。アーキアとバクテリアはいずれも核膜を持たない原核生物であるが、進化系統的に大きく隔たっている。アーキアは、以前は嫌気、高塩分、高温、低pHといった極限環境にしか生息していないと考えられてきたが、現在では通常の環境にも普遍的に存在する生物であることが明らかにされている。
(※3)門:生物界の各ドメイン(※2参照)における最上位の分類階級(門以下は一般に綱、目、科、属、種と続く)。